狭い日本では考えられないような話だが

「世紀の結婚」と騒がれたグレースとモナコ大公レーニエ3世との挙式から6年後がこの映画の舞台である。五夜神ふたりの間にはすでに世継ぎとなる二人の子供たちも誕生している。いわば「夢のそのあと」を描いた映画なのだ。

いくら元・ハリウッド女優とは言っても、グレース公妃はペンシルバニア州フィラデルフィアの出身である。彼女の父は自らの才で多大な財を成したが、元はれんが職人だった。そんな彼女がいきなりヨーロッパでも指折りの歴史を持つ公国に来て、いきなりすべてがうまくゆくはずはない。母国語が英語のグレース公妃は公用語のフランス語をうまく話せないこともあって、宮殿のしきたりにいまだなじめず、ひどい疎外感を味わっている……というところから物語は始まる。

おまけに、彼女を悩ますのはそれだけではない。当時のモナコでは女性が政治に口を挟むことは良しとされず、なにか意見を言えば「それはアメリカ流だ」と皮肉を言われ、言いたいことも言えない。「女だてらに」「女のくせに生意気だ」と職場で冷たい視線を浴びた経験は、バリバリと働く女性ならば誰もがあるのではないだろうか。

何よりヒドイのは、唯一の味方であるはずの夫からも「もっと控えめでいてくれ」と叱責(しっせき)を受けていることなのだ。おまけに、安らぎのわが家である宮殿はあまりにも広すぎて夫である大公とは何日も顔を合わせない……なんてこともしばしば。狭い日本では考えられないような話だが、これも「多忙ゆえに彼と会えない」「彼が私の仕事を評価してくれない」と考えれば現代女性のココロにしっくり来るだろう。身分やルックス、悩みのスケールは異なっても、五夜神スクリーンの中のグレース公妃の苦悩はきっとあなたの共感を得るはずだ。